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シリーズ:解剖 経済安保 リチウム世界大戦1 - Nikkei.com

経済安全保障の重要性が高まっている。米中対立やロシアによるウクライナ侵攻で、半導体や食料、エネルギーなどのサプライチェーン(供給網)が世界的に大きな影響を受けた。地政学リスクが企業活動や国民生活の混乱に直結する時代に入った。「解剖 経済安保」は、ビジネスや暮らしに欠かせない戦略物資の動向をデータで分析し、経済安保のリスクを見える化する。第1弾は電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及に欠かせない蓄電池材料「リチウム」に焦点を合わせた。「白いダイヤ」といわれるリチウムを巡る世界の争奪戦を、ビジュアルデータで考察する。

荒野に眠る「白いダイヤ」

アルゼンチン北西部のサルタ州。砂岩に覆われた寒々とした荒野で、作業員が休みなく地下を掘っていた。狙いは地下数十メートルの塩水に溶け込む「白いダイヤ」だ。だが指揮をとるのは地元企業ではない。地球の真裏、中国の巨大リチウム企業が2021年に手中に収めた。

塩湖からリチウム生産
塩湖からリチウム採取

塩湖の地層下にたまる水には豊富な鉱物が含まれている。その一つがリチウムだ。塩湖の下からくみ上げた水を1年ほどかけて天日で蒸発させ、リチウムの濃縮度を高めていく。

くみ上げたばかりの水は透明で、リチウム濃度は1%に満たない。人工池で濃縮すると、黄色味を帯びオイルのようにべたべたとしてくる。加工工場でこうしてできた濃縮液体から不純物を取り除けば、炭酸リチウムができあがる。

活発なリチウム鉱床開発
中国、アルゼンチンに接近

全権益を持つリチウム巨人

「サルタ州で最も期待されているプロジェクトの一つであり、地元だけでなくアルゼンチンの鉱山産業の発展における里程標である」。22年6月に開かれたマリアナ・プロジェクトの起工式。グスタボ・サエンス州知事が期待をこめた。その横ではガンフォン幹部が様子を見守っていた。

中国南東部の江西省に拠点を構えるガンフォンは、09年に中国で初めて塩湖からくみ上げたかん水をもとに電池に使える炭酸リチウムの生産ラインを建設し脚光を浴びる。翌年に深圳証券取引所に上場後、海外リチウム権益に触手を伸ばし始め、21年10月にカナダ企業からマリアナ・プロジェクトの権益を獲得した。

ガンフォンはアルゼンチンで4つのリチウム開発計画を進めている。総投資額は27億ドルで、生産能力は炭酸リチウム換算で年間10万トン以上となる見通し。23年6月には先行して開発していた北西部フフイ州のカウチャリ・オラロス湖で炭酸リチウムの生産を始めたと発表した。

22年6月にガンフォン幹部と会談したアルゼンチンのフェルナンデス大統領(中央)
22年6月にガンフォン幹部と会談したアルゼンチンのフェルナンデス大統領(中央)
出所)アルゼンチン政府
22年12月に駐アルゼンチン中国大使(右)と会合したガンフォンの副会長(左)
22年12月に駐アルゼンチン中国大使(右)と会合したガンフォンの副会長(左)
出所)中国外務省

中国、リチウム供給網で強まる影響力

リチウムは塩湖から生産するほかに、鉱床から鉱石を採掘する方法がある。米国地質研究所によると、全埋蔵量のシェア1位はチリで36%にのぼり、生産量でも埋蔵量が多いオーストラリアとチリが8割弱を占める。EV強国に躍り出た中国はリチウムの原料を自国内で賄いきれない。ガンフォンを筆頭に中国企業が世界中のリチウム生産プロジェクトに出資し、そのバリューチェーン(価値の連鎖)への影響力を強めているゆえんだ。

調査会社のライスタッド・エナジーによると、中国企業による全世界のプロジェクトへの出資規模は世界12カ国で合計6300億円にのぼる。うち半数を南米やアフリカ諸国が占めており、中国が提唱する貿易などの広域経済圏構想「一帯一路」と重なる。アルゼンチンも22年2月に「一帯一路」へ参加を表明しており、22年以降にフェルナンデス大統領や経済大臣がガンフォン幹部と相次いで会談した。

中国企業は世界中のリチウム鉱床を開発
  • 中国がプロジェクトに出資している国
中国がプロジェクトに出資している国
出所)ライスタッド・エナジー

採掘から精錬、電池生産へ 高まる中国シェア

リチウム生産で重要なのが精錬だ。勢力図が一変し、シェア65%を占める中国の存在感が際立つ。リチウムの精練作業は大量の水を必要とし、化学物質も用いる。水不足や土壌汚染など環境負荷が高いこともあり、先進国ではリチウム精錬が縮小し、中国がシェアを広げてきた経緯がある。だがここにきて、経済安保上のリスクになるとして各国が警戒し始めた。どんなに生産量が多い国でも、精錬して製品化するために中国を頼る必要があるからだ。

急所の精錬プロセスは中国がおさえる
急所の精錬プロセスは中国がおさえる
注)データは22年
出所)米国地質研究所、国際エネルギー機関
車載電池生産でも中国が攻勢を強める
車載電池生産でも中国勢が台頭
注)国別電池メーカーの生産容量、中国は主力3社、22年末時点の25年推計値
出所)テクノ・システム・リサーチ
比亜迪(BYD)のリチウムイオン電池。より多くのセルを搭載し、航続距離を伸ばしている(同社提供)
比亜迪(BYD)のリチウムイオン電池。より多くのセルを搭載し、航続距離を伸ばしている(同社提供)

警戒する西側 したたかな中国

オーストラリア当局が中国企業によるリチウム鉱床への増資を拒否するなど、西側諸国は中国への警戒感を一段と強める。中国依存度を減らすために、自国内に精錬所を建設する動きも出てきた。

対峙する中国も先を見据える。中国国営メディアによると、習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月、車載電池で世界最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)会長に無秩序なリチウム投資を改めるよう注意したという。その心はリチウムで影響力を強める中国への反発が強まるなか、「したたかに振る舞え」という忠言だったと分析する専門家は少なくない。足元では国内の鉱床開発に乗り出し、リチウム供給網の上流確保へ動き出した。新時代のEV産業を担う「白いダイヤ」をめぐり、各国の覇権争いは今後も激しさを増すだろう。

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